山田悠介さん(小説家)の「仕事とは?」|後編

やまだ・ゆうすけ●1981年、東京都生まれ。2001年、自費出版したデビュー作『リアル鬼ごっこ』がベストセラーに。2003年、第2作『@ベイビーメール』も10万部を超えるヒットとなり、小説家としての地歩を固める。以来、『親指さがし』『パズル』などのヒット作を次々と発表し、10代を中心に圧倒的な支持を得る。『リアル鬼ごっこ』は園子温氏が監督を務め2015年に公開された映画など2008年からの7年で6度映画化されたほか、『ライヴ』『パズル』など多くの作品が映像化されている。4年ぶりの長編最新作『僕はロボットごしの君に恋をする』も累計14万部のヒットとなっている。

前編では山田さんが小説家を志し、キャリアの礎を築くまでの経緯をうかがいました。
後編では小説を書く上で大切にしていることや、ご自身の変化についてお話しいただきます。

作家にはそれぞれ役割がある。僕は僕の役割を果たしたい

-小説を書く上で大切にしていることは?

新刊のインタビューをしていただくときによく「この作品のテーマは?」「伝えたいメッセージは?」と聞かれるのですが、作品にメッセージを託すことはしません。自殺する子たちに対して命の大事さを伝えたくて書いた『スイッチを押すとき』(2005年)だけは例外ですが、基本的に面白いか、面白くないかがすべて。純粋にエンタテインメントとして楽しんでもらえるものを書きたいと思っています。難しい作品を読みたい人には、そういう作品を読んでもらえばいい。作家にもそれぞれ役割があって、僕は僕の役割を果たそうと思っています。ただ、この「役割を果たす」というのを最近、ちょっと厳しく感じた時期がありまして…。

-どのあたりに厳しさを感じたのでしょう?

『リアル鬼ごっこ』や『パズル』といった20代のころに書いた作品は題材に刺激的な要素が大きく、ゲーム性やスピード感があって、若い人たちに楽しんでもらえたというのがあると思うんですね。そして、僕自身も自分が読みたい作品を書いていました。ところが、30代になって、子どもも生まれたりすると、感覚が少し変わってきたんでしょうね。少し温かい話に魅力を感じるようになって、過去の自分の作風を純粋に楽しめなくなったんです。でも、難しい話を作っても、面白くない。人に楽しんでもらえて、自分も納得できるのはどんな作品か。前者のアイデアはいくつも浮かんだのですが、後者にかなうものがなかなか見つかりませんでした。

「売れなくなったら、小説家は辞めよう」と思っていた

-見つけた答えが、4年ぶりの長編小説『僕はロボットごしの君に恋をする』(『僕ロボ』。2017年10月)だったわけですね。AIやロボットが普及した2060年を舞台にしたお話で、過去の作品に比べて、人間の愛情が丁寧に描かれている印象があります。

読んでくださった方によって受け取り方はさまざまで、サスペンス要素を楽しんだ人もいれば、恋愛の切なさを感じてくれた人もいるようです。僕の作品には「こう読んでほしい」というものはなくて、読者それぞれが自分で意味を見つけてもらえるようなものを書くのが理想なので、うれしいです。

-長編小説を書かなかった4年間、焦ったり、悩むことはありましたか?

なかったです。やはり小説というのは、その時々の自分が出てしまうもの。20代のころの作風を求められても、それに応えられないのは仕方ないと思っていました。『僕ロボ』が書けたのは、機が熟すまで編集者の方が待ってくれたことも大きいです。もともと僕は「売れなくなったら、小説家は辞めよう」と思っていました。「売れない」というのは、楽しんでもらえないということ。どうやって、人を楽しませるか。僕にとって、小説を書くというのはそれがすべて。自分が「面白い」と思えるものを書かないと、人を楽しませることはできないので、無理に自分を駆り立てることはないですね。

-『僕ロボ』は初版10万部からスタートし、現在は14万部に達しています。売れていますから、小説家は辞められませんね。

はい。子どももまだ小さいですし、オムツとミルクを買うためにも、頑張ります(笑)。

学生へのメッセージ

メッセージですか? うーん、困りましたね。僕から言えることはないので、中学時代の恩師が僕を学級委員に任命した時の「おまえは何もするな。みんなにやってもらうのがおまえの仕事だ」という言葉を紹介します。この教えを忠実に守り、僕は小説を書く以外のことは極力何もせず、装丁や宣伝といったことに口を出さないようにしています。作品が映像化やコミック化される時も、注文をつけたことはほとんどありません。それぞれの分野にプロがいて、のびのびとやってもらった方が、パフォーマンスが上がり、作品の世界観も広がると考えているからです。それに、仕事が好きでたまらない人は別として、一人で抱え込むと大変じゃないですか。仕事って、しない方がうまくいくこともある。豆知識としてお伝えしておきます。

山田さんにとって仕事とは?

−その1 「好きで、自分にもできそうなこと」が、小説を書くことだった

−その2 プロの世界で、「2軍」「3軍」のアイデアは通用しない

−その3 大切にしているのは、「どうやって人を楽しませるか」

INFORMATION

最新作『僕はロボットごしの君に恋をする』(河出書房新社/本体1000円+税)。舞台は3度目のオリンピックを迎えた2060年の日本。国家の極秘プロジェクトで人型ロボットの操作官を務める主人公・健はテロ対策担当に抜てきされる。しかし、ひそかに想いを寄せる幼なじみ・咲がテロに巻き込まれ、事態は急変。果たして健はテロを防ぎ、愛する人を守れるのか? 山田さんの「一つの作品をじっくり丁寧に書きたい」という思いから、これまでの作品の何倍も構成に時間をかけ、推敲(すいこう)を重ねて完成した、感動の物語。

編集後記

どの質問にもポンポンと答えてくださった山田さんですが、学生さんへのメッセージをお願いした時だけは一瞬の間があり、こんな話をしてくれました。「将来ラクをするために、若いうちは頑張る。僕自身はそういう考えでしたし、頑張って良かったと思っています。でも、それを皆さんへのメッセージとして伝えたいかというと、違う気がするんですよね。どんな風に働くかというのは、他人が何か言えることではないと思うんです」。(編集担当I)

取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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