エントリーシート(ES)や面接で必ずと言っていいほど聞かれる「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)。「ガクチカに書けるようなネタがない」「何を書けばいいのかわからない」などと悩む就活生が多いようです。
そんな中、ソニーグループでは2023年卒の新卒採用から、ガクチカを評価する際の「6つのポイント」をオープンにしています。この6つのポイントには採用時に企業が知りたいこと・学生が伝えるべきことがしっかり盛り込まれているため、ソニーグループへの応募はもちろん、就活全般において大いに役立てられそうです。
今回は、ソニーグループの新卒採用を統括する浅井孝和さんに、6つのポイントを解説いただくとともに、このポイントを公開した理由と、どんな姿勢でガクチカに臨んでほしいのかうかがいました。
聞き手:リクルート『就職ジャーナル』編集長 中田充則
力を注いだ体験なのに、書き方で伝わらないのはもったいない
――ソニーグループでは就活生に向けて、ガクチカを評価する際の「6つのポイント」を公開されました。これはまさに、「私たちはココを見ているんですよ」ということをオープンにしたということですよね。新しい取り組みだと思いました。まずは、公開した理由をお聞かせください。
浅井 新卒採用においては、さまざまな「不」(不利、不当、不満など)が生じています。例えば、企業から提供される情報の質や量が不十分で、企業と学生の間に不均衡が生じていることや、不合格になっても企業からのフィードバックがないため、次のESや面接に生かせないことなど。ソニーグループでは以前から、これらの「不」を解消したいと考え、さまざまな打ち手を講じてきました。
今回、ガクチカの「6つのポイント」をオープンにしたのも、「不」解消のための施策の一つ。「ガクチカ」というと、華やかなエピソードを書かなければと思う就活生が多いようですが、決してそんなことはありません。なぜそれをやろうと思ったのか、こだわったことは何か、それによって何を学んだのかなどを知ることによって、その人らしさや、今後の可能性を見たいと考えています。
しかし、中にはせっかくのいい体験を文章でうまく表現できないという人も少なくありません。就活生が、おそらく多大な時間を費やして作成したにもかかわらず、肝心のポイントが抜けていたりして「うまく書けないから伝わらない」のはあまりにもったいないこと。
ソニーとして、この「不」の解消のために何をすべきかを考え、われわれがガクチカでチェックしている6つのポイントを公開するに至りました。見たいポイントをあらかじめ提示しておけば、要領がいい学生・悪い学生、表現がうまい学生・不得意な学生における非対称性が薄れ、フェアでフラットな状態で選考ができると考えました。
ソニーグループのガクチカ「6つのポイント」
- きっかけ・背景
- 設定したゴール
- 体制・役割
- こだわったこと
- 結果・学んだこと
- 学んだことを今後どう活かすか
浅井 「私たちソニーが、ガクチカを通じて知りたいこと」は、ほぼこの6つのポイントに集約されています。どういうきっかけで、何にこだわって取り組んだのかを聞く1~4は、ソニーらしさが反映されていると思います。
ソニーでは基本的に、社員の「これをやりたい」という思いを否定することはありません。ただ「なぜそれがやりたいのか」を問われる場面が多いので、これらはカルチャーフィットを判断する上でも特に知りたいポイントです。
そして、単に体験しただけでなく、これらの体験から何を学び、どう糧になったのか、そして将来どのように生かせると思っているのかも知りたいと考えています。これらのポイントからは、入社後に学びを存分に生かし、やりたいことに突き進んでくれそうかどうかを見ています。
6つのポイントを網羅すれば、ガクチカに軸が通りストーリーが生まれる
――志望度が高い企業であるがゆえに、本来の自分らしさをゆがめてその企業の求める人物像に合わせようとする学生も少なくありません。それにより、「素の自分らしさ」が伝わらず選考の機会を逃しているケースもありそうです。この6つのポイントに沿ってガクチカをまとめれば、自分らしさも伝えられそうですね。
浅井 この6つが網羅されているとガクチカに1本の軸が通り、その人ならではの「ストーリー」が伝わってきます。そして、書き手の問題意識やアンテナの高さ、こだわりなどもより伝わるので印象に残ります。「面接でもっと詳しく聞いてみたい、もっと人となりを知りたい」と思えるので、面接に進んでいただく可能性も高まると思います。
――2023年卒の新卒採用から、この6つのポイントをオープンにされたということですが、実際、ガクチカの内容に変化はありましたか?
浅井 われわれの周知がやや足りなかったために、「劇的に変化した」とまでは言えませんが、前年に比べるとポイントを押さえて書いてくれる学生が明らかに増えたという印象を持っています。
参考として、2023年春に当社に入社予定の学生のガクチカをご紹介します。6つのポイントに沿ってまとめられていて、彼の思いやこだわり、学びが非常にわかりやすく伝わってきた例です。
<6つのポイントを押さえたガクチカ例>
中高生に向けたリモート教育事業の運営に取り組んでいる。コロナ禍における全国一斉休校に伴い、困惑する中高生に対して学生の自分にできることはないかと考え、起業を決心した。(1.きっかけ・背景)
現在は、この事業の代表として、核心を突いた教育コンテンツの創出とその価値の最大化を目指している。(2.設定したゴール、3.体制・役割)
この目標を達成するために最もこだわっていることは、中高生にとって本当に価値のある体験とは何かをゼロベースで考えることだ。具体的には、従来の詰め込み型の教育を否定し、認知科学に基づくコーチングを提供することで、学生自身の主体的な学びを実現させる仕組みを作った。これは、内発的動機付けに注目し、勉強すべき内容とその方法を提供する仕組みの方が、学生の勉強時間を有効活用できると考えたためだ。(4.こだわったこと)
結果として、現在に至るまで40名を超える顧客に価値を提供し、受験生全員の志望校合格を実現した。(5.結果・学んだこと)
以上の経験から得た最大の学びは、顧客の潜在的なニーズをくみ取り、形にするためには、一次情報の取得と想像力が必要になるということだ。今後は、私がソニーグループで取り組みたい内容にこの学びを生かすことで、世界中の人々に価値を提供する次世代型サービスを創出していきたい。(6.学んだことを今後どう活かすか)
このガクチカで、彼がコロナ禍での教育体制に問題意識を持ち、その解決のためにどのように行動し、どんな成果を上げたのか、すぐに理解できました。常にアンテナを高く張り、情報収集を怠らない姿勢も伝わってきました。彼は理系専攻の学生であり、教育は専門領域ではないのですが、どういうきっかけで教育問題に注目したのか、彼なりのこだわりを面接で深掘りして聞いてみたいとも思えました。
ご紹介したガクチカは「学生時代に起業し、かつ事業的にもうまくいき学びになった」という例ですが、あくまで6つのポイントをうまく網羅した例としてご紹介しました。
繰り返しになりますが、当社は今回の例のような起業といった特別な経験を求めているというわけではありません。学生時代に力を注ぎ、学びになった体験であれば、どんなテーマでもOK。ポイントに沿ってまとめていただくことで、ご自身の思いや熱意など「あなたらしさ」が伝わるはずです。
就活の「不」に向き合うことで、学生に「素の自分」を出してもらいたい
――この「6つのポイント」は、ガクチカに苦手意識を持っている就活生にはうれしい情報。ソニーグループだけでなく他社へのガクチカをまとめる際にも、きっと役に立つのではないかと思います。ところでソニーグループでは、ほかにも就活の「不」を解消する取り組みをされているそうですね。
浅井 2023年卒の新卒採用から、エントリー時に受けていただく性格検査の結果を学生一人ひとりにフィードバックしています。性格検査の結果は、ソニーグループの選考そのものにはまったく関係ありません。検査結果の解説書と共にお戻しすることで、今後の就活に役立ててもらいたいという思いによるものです。学生からの反応はおおむねポジティブで「その後の就活に役立った」「ソニーの思いが伝わった」との声も多く、うれしく思っています。
また、動画での情報発信も強化しています。ソニーグループが新卒採用で実施している個人面接、私服面接、コース別採用などの施策について、なぜ実施しているのか、何を大事にしているのかなどといった背景までは十分に伝え切れていなかったので、「YouTube」のソニーグループ採用チャンネルで動画を公開し、誰でも見られるようにしています。
2023年卒の面接では、リモート面接の前に学生にリラックスしてもらうためのティザー動画も作成しました。通常、面接開始ボタンを押すとすぐに面接担当者が画面に出てきますが、緊張して自分を出し切れない学生も少なくありません。そこで、面接担当者が出てくる前に、錦鯉さんなどソニー・ミュージックアーティスツに所属する芸人に登場してもらい「励まし動画」を流しています。学生の緊張を和らげ、元気づける時間を設けることで、できるだけ素の自分を出してほしいという狙いで作成しました。
就活では、少しでもよく見せようとよろいを着て「自分を盛る」人が少なくありませんが、よろいを着た状態で内定を得て入社するのはミスマッチにつながりやすく、本人にとっても企業にとってもいいことにはなりません。これらの取り組みにより、学生がよりリラックスして「自分らしさ」を出してもらえるようになれば、うれしいですね。
取材・文・編集/伊藤理子
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