遠山正道さん(株式会社スマイルズ 代表取締役社長)の「仕事とは?」|前編

とおやままさみち・1962年、東京都生まれ。85年、慶應義塾大学商学部卒業後、三菱商事株式会社入社。99年に「Soup Stock Tokyo」第1号店をお台場ヴィーナスフォートに開店。2000年、三菱商事初の社内ベンチャー企業「株式会社スマイルズ」を設立。08年、MBOにより株式100パーセントを取得し独立、三菱商事を退社。アーティストとして個展を開催するほか、ネクタイブランド「giraffe」も手がける。09年、現代のセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」を丸の内にオープン。10年、表参道ヒルズに2号店、15年には京都祇園に3号店をオープンし、現在に至る。著書に『スープで、行きます』『成功することに決めた』など。

スマイルズ http://www.smiles.co.jp

社員の人間性に引かれ、三菱商事へ。「自分ならどうするか」を常に問われた

-新卒で三菱商事に入社された理由は?

応募したのは「海外にかかわる仕事をしたいから、商社かな」というくらいの漠然とした動機だったのですが、選考が進んでいく過程でお会いした面接担当者がとても紳士的な方々で。その人間性に引かれ、三菱商事に憧れを抱くようになりました。ところが、3次選考の集団面接で、ほかの応募者と比べて明らかに僕はうまく話ができず、「このままでは入社できない」と感じましてね。すぐさま、かねてから面識のあった社員の方を訪ね、「先ほどの面接で僕はうまく話せなかったけれど、社員の方々とお話ししてよりいっそう御社に入りたくなりました。チャンスをもらえませんか」と訴えました。それが功を奏したのか、最終選考に進み、入社することができたんです。

私が最終選考前に相談にうかがったのは湯川さんという部長職の方で、湯川さんは社内でも名の知られた存在でした。湯川さんが言うには、「採用面接で世の中の話はするな。自分自身が体験し、感じた話をしろ」と。社会に出たことのない学生が「燃料部門で、グローバルなビジネスに携わりたい」とどこかで聞きかじった話をしても、ビジネスの現場を知る面接担当者の方が一枚も二枚も上手に決まっています。でも、例えば、「バックパックでアフリカの田舎をあてもなく旅していたら、小さな村と村の間に深い谷があって、そこにきれいな赤い橋がかかっていた。ふと見ると、三菱商事の名前が刻まれていた。かつてはふたつの村を行き来するすべがなかったのに、この橋のお陰で村人たちに交流が生まれたんだと考えたら、とても感動して、自分もそんな仕事がしてみたいと思った」というような話だったら、その人自身の思いをそのまま伝えているから、面接担当者も突っ込みようがないでしょうと。つまり、「会社に入って何をやるにせよ、自分自身が心動かされたことを形にしていくのが仕事。社会に出てやっていくには、まずはそういう思いみたいなものを持っているかどうかが大事なんだ」と湯川さんはかけ出し時代の僕に教えてくれました。実際、三菱商事では「与えられた環境の中で自分ならどうするか、どう感じるか」ということを常に問われたように思います。

「頼まれもしない仕事」を楽しんでやっていると、チャンスが巡ってくる

-三菱商事のような大きな組織で、自分の思いを形にするというのは簡単なことではなさそうですね。

確かに、いきなり何兆円もの予算規模のプロジェクトを動かすというのは難しいかもしれません。でも、「自分だったらこうする」という思いを形にするのは、目の前の業務でもできます。僕は優等生的な社員ではありませんでしたが、取引先の打ち合わせに上司と同行する時に、取引先の事業やこれからお会いする方の情報を集めてレポートを作成し、上司に渡すといったことを自発的にやったりはしていました。すると、打ち合わせでたまに上司が私の集めた情報を使ってくれたりするんですね。それがうれしくて、もっと役立つものをとさらに工夫をするわけです。頼まれもしないのに(笑)。お客さんや上司の目線で考えてみて、自分なりにできることをやる。そういう「頼まれもしない仕事」を楽しんでやっていると、何かの時に思い出してもらえて、「じゃあ、あいつに頼もうか」とチャンスが巡ってくるようになります。

自分自身の力で何かをやってみたくて、33歳でいきなり個展を開催

-スープ専門店「Soup Stock Tokyo」を立ち上げた経緯は?

入社してしばらく都市開発に携わり、当時導入されたばかりのパソコンや電子メールを社内に普及させる部署を経て、30歳になったころかな。IT関連の部署で、湯川さんの部下として働くことになったんですね。憧れの上司との仕事は刺激的だったのですが、いつの間にか湯川さんに依存しかけている自分に気づいて、このままではマズイと。とにかく自分自身の力で何かをやってみたくて、33歳の時にタイル絵の個展を開きました。なぜ個展だったのかはいまだに謎ですが(笑)。学生時代に雑誌のイラストを描いたりしていたので、自分ができることとして現実的だったのでしょう。

この個展では、70点の作品が完売しました。「いい絵を描きたい」というような個人性と、事業性を自分なりに両立できたことに喜びを感じ、これからはこの感覚の延長線上で仕事をしていきたいと思うようになりました。そうなると、「何かやってみたい病」が進行しましてね。ITよりも自分にとって身近な小売業をやってみたいと考えて、会社に頼み込み、関連会社の日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)に出向させてもらったんです。KFCには3年間いたのですが、その間に新規事業を担当することになった時に、「スープを飲んでホッとひと息ついている女性」のシーンがひらめきました。そこからアイデアを広げて「スープのある一日」というタイトルで物語仕立ての企画書を作りました。「“Soup Stock Tokyo”はスープを売っているが『スープ店』ではない。スープは共感のための軸である。スープを提供することによって共感の関係性がお客さまとの間に生まれれば、スープが別の食べ物やサービスになっていったりする」というようなことを書いたんです。この企画書を当時のKFCの社長が面白がってくれて、1999年に「Soup Stock Tokyo」の1号店をお台場ヴィーナスフォートにオープンしました。

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後編では大企業からの独立の理由や、社内外の起業家を支援することへの思いをお話しいただきます。

→次回へ続く

(後編 2月15日更新予定)

INFORMATION

ネクタイ専門店「giraffe」は「サラリーマン一揆」をコンセプトに、「誰かに首を縛られるのではなく、自らの首をぎゅっと締め上げ、キリンのように高い視点で遠くを見つめよう」という遠山さんの思いから生まれたブランド。34℃「目を閉じる。目を開く。静寂。」、36℃「技術。家族。知性。」、38℃「反骨の気概。ユニークネス。恋愛!」、40℃「道化?覚醒?あとはご自由に。」をテーマに「体温別」にラインナップがそろえられているのが特徴。シンプルな色・柄のものもリバーシブルで使えたり、大剣・小剣のデザインが異なるなど遊び心があり、着用すれば、就職活動で出会う人たちとのコミュニケーションにもひと役買ってくれそうだ。

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取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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