経済発展中のアジアで国際空運のニーズが増大。農林水産品の伸びにも注目が集まる
航空機を使った輸送方法には、小口貨物が中心の「クーリエ(国際宅配便)」と、大口貨物中心の「航空輸送」がある。クーリエを扱う企業はクーリエ会社、あるいはインテグレーターと呼ばれ、ある国で集荷した物品を国内で輸送し、飛行機で運び、通関手続きをして送り先に届けるまでのすべてを請け負う。まさに、「グローバルな宅配便サービス企業」と言えるだろう。フェデックス、ユナイテッド・パーセル・サービス(ともに米国)、DHL(ドイツ)、TNTエクスプレス(オランダ)が代表格で、国内企業としては全日本空輸(ANA)グループのOCSなどがある。
一方の航空輸送は、発送元の国と発送先の国のそれぞれで、輸送・通関手続きを手がけるフォワーダーと、飛行機での輸送を担当する航空会社とがタッグを組んで行う。国内のフォワーダーとしては、近鉄エクスプレス、郵船ロジスティクス、日本通運などが代表的存在。また航空会社には、全日本空輸や日本航空(JAL)のように旅客と貨物の両方を手がける企業もあれば、日本貨物航空のように貨物輸送だけを行う企業もある。
国土交通省の「航空輸送統計年報」によると、2014年の国内定期航空輸送の貨物重量は93万6626トン。前年(92万4204トン)より1.3パーセント増だった。ここ数年は、90万~95万トン程度で比較的安定している。一方、国際航空輸送の貨物重量は138万9219トンで、こちらは前年(120万3615トン)より15.4パーセントも増えた。
航空輸送の特徴は、「海運などに比べてコストがかかり、大量輸送にも向かないが、短い時間で運べる」点にある。そのため、電子部品や精密機器といった小型で付加価値の高い物品、あるいは、緊急性の高い医薬品などの輸送に使われることが多い。中国など一部の新興国では景気減速の懸念があり、また海運輸送との競争も激しくなりそうだが、経済発展が続くアジアを中心に、今後も国際空運のニーズは高まると予想されている。
農林水産物・食品類の輸送量が急激に伸びていることも、空運の需要増を後押ししそうだ。海外で和食の人気が高まり、ホタテやサケ、マスといった魚介類の輸出量が増加。また、いちごやメロン、ぶどうなど高級果物を求める外国人も増えている。農林水産省の「平成26年農林水産物等輸出実績(確定値)」によれば、14年における農林水産物の輸出額は、対前年比11.1パーセント増の6117億円。04年(3609億円)に比べれば、7割近く伸びた。アジア諸国では富裕層が増えると見込まれており、国内の生鮮食品が空輸される機会も増えそうだ。
沖縄の那覇空港をハブ空港(キーワード参照)化する動きも見逃せない。沖縄は中国や東南アジアに近く、通関の24時間化も実現している。そうした特徴を生かし、沖縄を中継拠点とした空運網が整備されつつあるのだ。例えば、日本の主要空港から夜のうちに沖縄に物品を運び、沖縄で積み直した後、早朝にはアジア各国に向け飛行機を飛び立たせることが可能になっている。
空運を海運や陸運などと結びつけ、ワンストップでグローバル物流を実現する必要性も高まる一方だ。例えば、佐川急便を傘下に持つSGホールディングスでは、13年5月にシンガポールの企業を買収。さらに14年6月には、スリランカの企業を買収した。このように、陸・海・空の枠組みを超えた連携にも注目しておきたい。
空運(貨物)業界志望者が知っておきたいキーワード
空運を行う際に中核的な拠点となる空港のこと。航空路線網を車輪に例え、その中心にある「ハブ」を中核的な空港と見立てている。少量の貨物を輸送する際には、発送元から発送先まで直接運ぶより、一度ハブ空港に貨物を集めた上で空輸する方が効率的だ。
フレーター(freighter)とは貨物輸送機という意味。胴体の中はすべて貨物スペースになっており、機体の頭の部分を開いて貨物を出し入れする。
ベリー(belly)とはお腹のこと。旅客機の腹部に貨物室があるため、旅客機で貨物を運ぶ便をこのように呼んでいる。全日本空輸では、ベリー便として運航されていた便に旅客者を乗せることで、低運賃な旅客サービスを提供して注目されている。
このニュースだけは要チェック <那覇空港を巡るニュースに注目しよう>
・ANAホールディングス傘下のANA Cargoが、沖縄と中国福建省のアモイ、フィリピンのマニラを結ぶ路線を新設すると表明。アモイとマニラには日系企業が数多く進出しており、空輸需要が拡大しそう。また、これによって沖縄の国際物流ハブ空港化はさらに進むものと見込まれる。(2015年4月8日)
・近鉄エクスプレスが、シンガポールの海運会社で、北米やアジアを中心に物流業を展開しているAPLロジスティクスを買収することで合意したと発表。近鉄エクスプレスは国際的な航空・海上輸送サービスの拡充を目指しており、今回の買収もその一環とみられる。(2015年2月17日)
この業界とも深いつながりが<生鮮食品の輸送量は今後増えそう>
半導体
小型で軽く付加価値性の高い半導体製品は、貨物として空輸される機会が多い
IT(情報システム系)
空運と陸運・海運を組み合わせたトータル物流を実現するため、ITを活用
食品
魚介類や果物を新鮮なまま輸出するため、航空輸送が利用されるケースが増加
この業界の指南役
日本総合研究所 主任研究員 吉田賢哉氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。専門は、新規事業戦略やマーケティング戦略、企業のビジョンづくり・組織戦略など。製造・情報通信分野などの業界動向調査や商品需要予測も手がける。
取材・文/白谷輝英 イラスト/坂谷はるか