就職先を選ぶ際、ともすると企業の知名度や規模、安定性ばかりに気を取られがち。しかし、違う視点でリサーチしてみると、これまで知らなかった企業に出会える可能性も高まります。
今回は、人事のエキスパートであるシンクタンク・日本総合研究所の太田壮祐さんに、企業選びのポイントをインタビューしました。企業を選ぶ際に見ておくと良いポイントとは?
目次
太田壮祐(おおた・そうすけ)
企業を「人事」や「組織」の観点から支援する業務に従事している。「働き方改革」への対応のあり方や、労働人口減少時代における人材活用方法などについての研究にも参画。
【ポイント1】業種と職種は分けて考えるのではなく、掛け合わせで考える
まず、大前提として皆さんにお伝えしたいのは、万人にとっての「いい会社」は存在しないということです。働くに当たって大事にしたい価値観や志向は一人ひとり異なりますから、それぞれの価値観・志向に合った企業が、その人にとっての「いい会社」であることは、ぜひ念頭に置いておいてください。
希望の職種に就ける可能性・時期を調べておこう
その上で、一つ、企業選びの際に注意すべきポイントとしてアドバイスできるのは、業種と職種のどちらか一方だけで企業を見るのではなく、業種と職種の掛け合わせで企業を見よう、ということです。
例えば、「食品メーカーで働きたい」などと「業種」を重視する場合であっても、入社後、どんな仕事に携わることができるのか、数多くある仕事をどのようにローテーションしていくのか、というところまで着目する必要があるのです。というのは、例えば、その企業の仕事の中で興味を持ったのが「商品企画」など、担当する社員数が少なく、かつ人気のある仕事の場合、携わることができるとは限らないからです。興味を持った職種に就ける部署に配属される可能性がどれくらいあるのか、実際に就ける時期はいつごろかといった「職種」に関する情報も入手して考えることが、入社後のミスマッチを防ぎます。
また、「人事や経理などの管理部門に関心がある」など「職種」を重視する場合、管理部門であれば仕事の内容はどの業種でもさほど大きくは変わりません。したがって、どの「業種」の管理部門でなら意欲的に働くことができるか、ということを考える必要があります。
このように、業種または職種のどちらかで企業を判断するのではなく、どちらも併せて、一体的に考えることが、入社後のミスマッチを防ぐために重要です。
いろいろな仕事を経験したい人は「総合職採用」がオススメ
なお、職種を決めずに、入社後はいろんな仕事を経験したい、会社のことを幅広く知りたい、という人は、「総合職」を採用している企業に着目しましょう。
中でも、日系企業でこれまで伝統的に社員のローテーションを行ってきた企業では、今後も同様にローテーションを行っていく可能性が高いです。このような企業は、採用ページ上や会社説明会などで異動の考え方について説明していることが多いですので、注目してみてください。
これらの企業に入社した場合、一定の時間をかけて幅広い業務に携わることができます。一方で、定期異動を繰り返す中で、必ずしも自分が望む部署・仕事につけないことも多くありますので、「そもそもこの業種(会社)が好きだ」という部分を持っておくことが仕事のモチベーションを保っていくためにも重要です。
また、別の視点での例を挙げるとすれば、我々が所属するコンサルティング業界のように、仕事内容は同じでも、担当する業種が定期的に変わる業種も選択肢の一つとなり得ます。
職種にこだわりがある人は、その気持ちを優先して企業を選ぶのも良い
また、やりたい仕事や職種に強いこだわりがあり、別職種への異動は避けたい、あるいは、いつになるかわからない希望職種への異動を待つのは嫌、という人は、自分の希望をストレートにかなえてくれる企業を探し、規模の大小にかかわらず狙っていくといいと思います。
もともと、研究開発職やファンドマネジャーなど、専門性の高い職種は職種別に採用している企業が多いですが、今は、営業職などでも職種を限定して採用している企業も探せばあります。
特に、ベンチャー企業やスタートアップ企業は、総合職を採用してローテーションさせる余裕はありませんから、学生の「やりたい仕事(職種)」とその企業が必要とする役割が合致する、ないし近しければ、希望に近い仕事・職種で採用してもらえるはずです。中でも、社長が自ら意思を持って積極的に発信するタイプのベンチャー企業などは、個人の意思を尊重してくれる傾向にあると思います。
【ポイント2】初任給ではなく、業界ごとの給与水準を見る
これは、企業選びにおいて「給与の高さ」や「安定性」を重視する人に着目してほしいポイントです。給与というと「初任給」に注目しがちですが、企業間の初任給の差はさほど大きくありません。それよりも大きな差が出てくるのは、5年後、10年後の給与です。
5年後、10年後の給与額を推測するには、業界ごとの給与水準を調べると良いでしょう。一般的に水準が高い業界の例としては、マスコミ、不動産、商社、エネルギー、インフラ、金融業界などがあり、業界ごとに厳然とした差があるのが実情です。すなわち、「高給を目指しても、実現は難しい」という業界も存在するのです。
気になる人は、ビジネス誌などで特集される、企業ないし業界ごとの年齢別平均給与ランキングなどを確認してみると良いでしょう。個別の企業の金額は実態と若干の差がある場合がありますが、業界ごとの金額差は、おおむね実態に合ってると思います。
【ポイント3】各種制度が形骸化しておらず「運用」されているかを確認
企業を選ぶ際に各種制度に注目する人もいると思います。その場合、制度の有無だけでなく、「形骸化されず、運用されている実態があるか」というところまで確認しましょう。
OB・OG訪問で本音を聞き出すには質問の仕方にコツがある
例えば、「育児休業」や「育児短時間勤務」をはじめとした両立支援制度は、今やほとんどの企業で整備されており、利用可能な期間を法定以上に設定している企業もあります。ただ、実態としてこれらの制度が十分に利用されているかというと、企業によって差があるのも事実です。同様に、今、各企業が整備を進めている「兼業」「副業」に関する規定に関しても、規定はあっても活用実績がない、という場合がまだまだありますので、注意しましょう。
実態を知るには、OB・OG訪問をするなどして、その企業で働く社員に直接聞くことをオススメします。
社員に質問するときは、「○○という制度はありますか?」と制度の有無を尋ねるのではなく、「どれくらいの人が利用しているか?」「利用した人に対する上司・同僚の反応はどうか?」など、社員だからこそわかる情報を聞き出せるよう、質問の仕方を工夫しましょう。
また、「どんな評価制度を採用しているのか?」といったことも大事です。以下の記事で詳しく紹介していますので、そちらも参考にしてみましょう。
【未来洞察のプロが語る企業選びの軸】未来への投資とは?先進的な働き方の見極め方は?
「制度」から企業の新しい取り組みやチャレンジも見えてくる
なお、各企業が整備している「制度」に着目することで、その企業の風土・文化が見えてくることがあります。例えば、「チャレンジやイノベーションを志向する企業かどうか」ということ。具体的には、新たなチャレンジやイノベーションを志向している企業の多くにおいて、兼業や副業に関する制度が実際に運用されていたり、一度退職した社員が希望した際に一定の条件に基づいて再雇用する「リターン雇用」といった制度が運用されていたりする傾向にあります。
リターン雇用の制度は、IT系のメガベンチャーやコンサルティング会社などに多いですが、最近では、メーカーなどでも取り入れる企業が出てきています。
今取るべき行動は…自分史を作り、大事にしたい価値観や志向を掘り下げよう
企業選びの3つの視点を紹介しましたが、冒頭にお話しした通り、「いい会社」は一人ひとり異なります。したがって、まずは「何を重視して働きたいのか」「どんな仕事をしたいのか」といった、自分の志向や価値観を明らかにすることをオススメします。
大事にしたい価値観や志向が明らかになれば、今回紹介した視点のうちどれを優先して企業を見ると良いかなども判断できますし、自分にとっての「良い会社」を見定めることができるようになるでしょう。
そのために有効な実際に私も就活生の時に行った取り組みとして、一般的ですが自分史の作成があります。
自分史というのは、文字どおり、生まれてから現在に到るまでの出来事や、その時々の思い・考えを書き出した自分の年表のこと。これを作ることで、自分が大事にしたい価値観や、志向が見えてくるのです。自分自身について深く掘り下げることが必要ですので、多くの時間がかかりますが、比較的自由な時間が多い今だからこそおすすめしたいと思います。ここで知った自分についての情報は、就職後のキャリア形成においても有用になります。
自分自身が現在抱いている「(こういうことが)好きだ/嫌いだ/興味がある」などの感情や、考え方、価値観には、必ず過去の経験が影響を与えています。例えば、「幼少期に大病を患い、そのときお医者さんに助けてもらって非常に感謝したから、自分も同じように病気の人を助けたくて医者になった」というように。ここまで劇的なものでなくても、誰しも、これまでの人生の中で影響を受け、考え方や価値観が形づくられた出来事や経験は必ずあるものです。それを掘り下げることで、志向や価値観が見えてきます。
心が動いた時を思い起こして、あなたの大事にしたいことを明確にしよう
ただ、最初から「何がどう影響を与えたのか?」と考えるのは難しいもの。そこで、まずは「その時していたこと」「起こったこと」など、事実・出来事ベースで思いつくところから書き出していきましょう。加えて、「自分で意思決定したこと」も書き出すと良いでしょう。
そうして出来事や意思決定の瞬間をある程度書き出したら、次に、その出来事があったときにどう思ったか、心が動いたか、また、なぜその意思決定を行ったのかなどを思い出していけば、今の自分の思いや考えとのつながりが見えてきます。とくに、意思決定をした理由・背景を掘り下げてみると、自分の好きなことやこだわりたいことが見えてくるでしょう。
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取材・文/浅田夕香
撮影/平山 諭