TARAKOさん(声優・ナレーター)の「仕事とは?」

TARAKO・1960年東京都生まれ。群馬県立太田女子高等学校卒業。81年、アニメ『うる星やつら』の幼稚園児役で声優としてデビュー。83年、シンガーソングライターとしてデビュー。90年『ちびまる子ちゃん』出演をきっかけに知名度を上げ、声優・ナレーターとして多くのテレビ番組に出演する。代表作に『ちびまる子ちゃん』まる子役、『まじかる☆タルるートくん』タルるートくん役、『甲虫王者ムシキング 森の民の伝説』チビキング役、トークバラエティー番組『心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU』のナレーションなどがある。演劇集団WAKUを主宰し、舞台の脚本・演出、出演も数多く手がけている。

オフィシャルブログ http://ameblo.jp/tarako-official/

『ちびまる子ちゃん』に抜てきされるも、自分の声は嫌いだった

高校生の時にアニメ『ルパン三世』に憧れてアニメ同好会を作り、卒業後は上京して演技の専門学校に入りました。声優として頂いた初めての仕事はアニメ『うる星やつら』の幼稚園児C役。ヒロイン役のオーディションを受けて落ちてしまったのですが、スタッフに声を覚えてもらえ、女子高生役や通行人役など脇役として頻繁に出させてもらいました。ただ、声優の仕事だけではとても食べていけなくて。スーパーマーケットの試食販売やコンビニエンスストアの店員、交通量調査などありとあらゆるアルバイトをやりました。

アニメ『ちびまる子ちゃん』のオーディションを受けたのは、声優になって、8年ほどたったころです。実は、最初はお声がかからなかったんですよ。ところが、その時に合格した方の声が原作者のさくらももこさんのイメージと合わなくて、2回目のオーディションで選ばれたんです。私の声や話し方がさくらさんに似ていて、キャラクターの雰囲気をリアルに表現できると考えてくださったようです。

まさか自分が主役をやらせていただけるなんてと驚きましたね。私は自分の声にコンプレックスがあって、もっとかわいらしい声質だったら良かったのにといつも思っていました。「主役にはなれない声だね」と面と向かって言われたこともあります。まる子役を頂いてからも、自分の声は嫌いでした。番組が始まったころはとにかく不安で、スタッフに何度も「大丈夫ですか?」と聞いたものです。

やりたいことと、できることって違いますよね。あと、自分がこうしたいと思うことと、人から認めてもらえること、求められることも違ったりする。自分が抱く理想の声との隔たりを常に感じていたので、皆さんから「まる子ちゃんの声、好きです」と言っていただいても、最初は正直、ピンとこなくて。「まる子だけが私の声ではないんだけどな…」という気持ちもどこかにありました。一方で、できること、求められることをやって評価をしてもらえたというのは、やはりほっとしました。すごく救われましたね。

『ちびまる子ちゃん』は開始2年目で1度終了し、約2年半後に再開されて今に至ります。開始2年目に終了を告げられた時は、ショックでしたね。当初は「2クール(半年)続くかどうか」と言われていた番組の人気が出て、スタッフも声優たちも脂がのってきた時期でしたから。でも、まる子と別れるさみしさを知ったぶん、再開が決まった時は本当にうれしかったです。「まる子、もう離さないよ」という感じ(笑)。まる子としての時間をそれまで以上に大切にするようになりました。

声優以外の仕事にチャレンジするようになったのも、再開までのブランクがきっかけ。『ちびまる子ちゃん』が1度終わって、仕事ががくんと減り、「この先どうしよう」と案じていた矢先、「時間ができたなら、やってみない?」と声をかけていただいたのが、ナレーターや世界紀行番組のレポーターの仕事でした。

現在はナレーターの仕事も多く、とても大事に思っているのですが、当初はこれまた自信がなくて。ナレーターの仕事の場合、番組のテーマは旅や食といったなじみやすいものから法律や社会、文化といった真面目で堅そうなものまで多岐にわたります。それまで声優としてアニメのやわらかい世界にいたので、自分が真面目なテーマの番組に呼んでいただけるとは思っていなかったのですが、ナレーターの仕事を始めて間もなく、美術番組のナレーションを担当したことがあったんですね。打ち合わせの前に頂いた台本には美術の専門用語もたくさん使われており、自分に本当にできるのか不安を感じました。

そこで、その番組に誘ってくださった田代裕さん(ドキュメンタリー番組を数多く手がける放送作家)にご相談したところ、「違うんだよ」と。番組の目的は普段美術館に足を運ばない人にも美術の面白さを知ってもらうこと。難しい言葉を真面目で堅いナレーションで語ってしまったら、誰も見なくなってしまう。そうではなくて、「堅い番組でチャンネルを変えそうになる人を、TARAKOのナレーションで止めてほしい」と話してくれました。番組に登場する「隣のお姉さん」的なアニメキャラクターになりきって、「この絵って、ここが素敵なのよ」と伝えることを大事にしてほしいと。

ああ、そうか。真面目なことを堅く、悲しいことを悲しく、楽しいことを楽しく表現するだけでは伝わらないこともある。「人に何かを伝えることって奥深いな」と感じましたね。田代さんの言葉をきっかけに、表現をすることをより面白く感じるようになりました。そのうちにナレーターとしてもいろいろな仕事を頂けるようになり、少し視野が開けたのかもしれません。あんなに嫌いだった自分の声についても「まあ、大丈夫なのかな」と今では思っています。

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若い時は、若い時なりのわがままと自由も必要

声優でもナレーターでも大事にしているのは、初めて台本を見た時の新鮮な感覚。だから、状況の許す限り、台本は読まずに収録に臨みます。あれやこれやとひとりで考えて作り込むよりも、現場でスタッフや共演者の方々とやりとりしながらその場で出てくるものを大事にした方が、ひとりよがりにならない気がするんです。

『ちびまる子ちゃん』を始めたころは、アドリブもどんどん入れていました。スタッフも何も言わなかったので、よかれと思ってやっていたんです。でも、今は決してやらないし、できません。十数年前から私も時々『ちびまる子ちゃん』の台本を書かせてもらうことがあり、脚本家の気持ちがわかるようになったからです。脚本家はセリフの助詞ひとつまで考え抜いて脚本を書いています。それを話し合いもなく勝手に変えることが、どれだけ脚本家を傷つけるのか。何も考えずにアドリブを入れていた昔の自分に会ったら、こんこんとお説教したいくらいです。

まる子の親友・たまちゃん役の渡辺菜生子さんと1993年に演劇ユニット「NAO-TA!プロデュース」を組み、舞台での活動も続けています。演出や脚本も担当していますが、昔書いた本を読むと、本当にひとりよがりで。誰かにアドバイスをもらっても聞く耳を持たなかったんです。もっといろいろな人の意見を聞けば良かったのに、ダメダメ子でしたね。

ただ、情けないことではありますが、経験を重ねないとわからないことというのも絶対にあると思うんです。だから、若い時は若い時なりのわがままと自由も必要なんじゃないかな。自分のやりたいことを思いっきりやる時期が1日でも1カ月でもないと、周りに流されてストレスをためてしまう。そのゆがみが、年を取ってから出てきてしまうと思うんです。これは私の持論なんですけど、若い時にやりたいことができなかった人ほど「頑固じじい」になってしまうんじゃないかな。逆に、若いころ頑固で鼻っ柱をおられた経験のある人は、いつまでも頭がやわらかい人が多い気がします。

『ちびまる子ちゃん』は2015年1月で25周年を迎えました。都内のスタジオで毎週金曜日に収録していて、現場でスタッフやほかの声優さんたちと会うとほっとします。みんな阿吽(あうん)の呼吸ですが、それに甘えてしまうと作品にいい影響を与えないと思うので、惰性にはならないよう気をつけています。だから、映像の口パク(人物の口の動き)のスピードが通常より少し速いなど、普段とは違うことが起きたときには、自分が試されている気がして燃えますよ。勉強の機会を頂けるほどありがたいことってないですから。

ナレーターとしてのキャリアも長くなってきましたが、まだまだですね。つい数年前のことなのですが、ある番組のナレーションをさせていただいて、自分はすごく気持ちよく台本を読んでいたんですよ。ところが、収録後にディレクターさんがやってきて、「TARAKOさん、言葉を流してはダメよ。読む側は気持ちいいし、それを聞いて気持ちいいと感じる人もいるかもしれないけれど、押さえるところは押さえてくださいね」と。もう、スタジオの天井から100トンの岩が落ちてきたような衝撃でした。ただ言葉を気持ちよく読むだけで、聞く人の存在を忘れかけていた自分に気づかされたんです。

それはもうショックだったのですが、同時に「もっと成長したい」といううれしい興奮もあって。翌週の収録では「絶対に一発でOKをもらうぞ」と、しゃべるスピードはそのままで単語だけドンと立てるようにしたり、ブレス(息つぎ)の位置を工夫してみました。すると、「今日は良かったよ」と言っていただけて。うれしかったですね。私たちの場合、次の仕事が必ず来る保証はありませんから、慢心したら、終わっちゃう。慢心しかけていた自分に気づくきっかけをくれたディレクターさんにすごく感謝していますし、「言葉を流すな」というのは今も肝に銘じて仕事をしています。

テレビアニメの声優やナレーションだったり、舞台の脚本や芝居だったり。表現をする仕事の面白さというのは、疑似体験をする楽しさなんだと思います。例えば、父を亡くした時、『ちびまる子ちゃん』で「お父さん」というセリフを言うのがつらくてたまらない時期がありました。ところが、しばらくたってスタジオで映像を見ながらアフレコをしていた時に、「あ、この中にお父さんがいる」と思えたんですよ。同様に紀行番組のナレーションなら海外に行った気分になれるし、人物に密着取材したドキュメンタリー番組のナレーションなら、その人になった気分になれる。私にとって表現というのは、疑似体験の喜びなんです。

その喜びを、仕事として人に伝えられるというのは本当に幸せなことだと思います。だって、すごいことですよね。お会いしたこともない人たちが自分の声を聞いてくれている。仕事を通して、自分を知ってくれている。仕事って何てすごい出会いの場なんだろうってよく思います。だから、大事にしなければ罰が当たる。そう思って一つひとつの仕事に真剣に向かっています。手を抜く余裕なんて、とてもとても(笑)。甘んじられるほどの経験はまだ積んでいないですから。

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INFORMATION

TARAKOさんと渡辺菜生子さんの演劇ユニット「NAO-TA!プロデュース」による8回目の公演『たいせつなきみ』が2015年4月18日(土)、19日(日)に大阪で上演される。TARAKOさんは出演のほか、脚本も担当。三人姉妹の長女の結婚式を間近に父親を亡くし、お互いの存在を見つめ直す家族の姿を描く。

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取材・文/泉彩子 撮影/刑部友康

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