プロフィール 多部 未華子(たべ・みかこ)1989年、東京都生まれ。2002年に女優デビュー。2006年の映画『夜のピクニック』では、その確かな演技で注目される。以降、ドラマ・映画・舞台・CMと幅広く活躍。昨年は『TOP HAT』で初のミュージカルに挑戦したほか、新国立劇場・芸術監督の小川絵梨子演出の舞台『出口なし』では、大竹しのぶ、段田安則という名優2人との3人芝居に出演。今年11月の舞台『ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~』では主演を務める。現在、声優を務めたNetflixの『リラックマとカオルさん』配信中。また、7月から放送中のNHKドラマ『これは経費で落ちません!』にも出演中。
記者会見など公の場でも、本当の気持ちを爽やかに伝え、その場にいる人たちの心をつかんでしまう多部未華子さん。自分を偽ることなく、周りとうまくやっていけたら。そう思っている人も多いのではないでしょうか?多部さんが大事にしていること、うかがってきました。
やりたいと思ったことは是が非でもやりたい
―『アイネクライネナハトムジーク』、すてきな映画でした。ご自身でご覧になっていかがでしたか?
撮影から1年以上たっているので、実はあまり当時のことを覚えていなくて(笑)。「そうだ、こんなお話だった」と新鮮に楽しく観ることができました。
―この映画には、さまざまな男女の10年間が描かれています。印象に残ったエピソードはありましたか?
冒頭に出てくる、美容師の美奈子(貫地谷しほり)のエピソードですね。原作で読んだ時から、すてきだなと思っていたのですが、映画で観てもやっぱりいいなと思いました。
―美奈子のエピソードは、彼女が気になっている男性がいて、その彼が人生の大事な選択を、日本中が注目するボクシングの試合の結果に委ねようとする。それに対して、美奈子が「そんなの他力本願だ」と怒る場面ですね。
私も美奈子の気持ちがよくわかります。「挑戦がうまくいったら」と何かの結果に頼るのではなく、自分で考えてほしいです(笑)。私自身も背中を押すきっかけが欲しいとは思わない方なので。
―背中を押されなくても、自分でやると?
そうですね。やりたいと思ったことは、是が非でもやりたいです。でも、それ以外はあまりこだわりがなくて(笑)。とてもはっきりしていると思います。
―多部さん演じる紗季と主人公・佐藤(三浦春馬)のエピソードもすてきなシーンがいろいろありました。バスのシーンもよかったです。
全体的に二人の倦怠(けんたい)期のような場面が多いのですが、その中でも、バスのシーンは佐藤のかわいらしさが出るシーンですよね。完成した映画を観ても、二人のシーンはほっこりしました。
―二人が大事な局面で「おかえり」「ただいま」と言い合う場面もよかったです。あそこは台本にはなかったそうですね。
そうなんです。あの日の撮影のことは、よく覚えています。撮影期間の最後の方に撮った場面で、私自身も現場になじんできていて、現場の空気感もとても和やかでした。
―どんな状況で、あのやりとりが出てきたんですか?
撮影しながら、自然とあのやりとりが出てきたんです。本番を3、4回撮りましたが、私の中で「一番よかったんじゃないかな」と思っていた回を、その場で今泉監督が選んでくださって。すてきな監督だと思いました。
―今泉力哉監督は今年ヒットした『愛がなんだ』で、今まで以上に注目を集めている監督です。初めてお仕事されて、いかがでしたか?
ワンカットごとに指示を下さるのですが、監督が撮りたい感情や表情が明確なので、とてもわかりやすかったです。監督の中には、特に理由は言わずに、ひたすらテイクを繰り返す方もいらっしゃって、それぞれのやり方がありますが、今泉監督はとても具体的にお話ししてくださる方でした。
―本当にワンシーンごとに皆さんの表情がよくて、なにげない話ですが、映画を見終わった後、ジーンとしました。
大きな何かが起こるわけではないけれど、小さなつながりで、小さい愛がたくさんつながっている映画だなと思いました。心がほっこりしたい方にぜひ映画館で見ていただきたいと思います。
自分にそんなに期待していないんです
―多部さんはミュージカル『アニー』に憧れたのが、このお仕事のきっかけだそうですね。
それが最初です。事務所に入ったのが14歳なので、16年前になりますね。
―16年間の中で、お仕事が面白いなと思えてきたきっかけはありますか?
今も特に面白いと思ってやっているわけではないのかな…と思います。お芝居が楽しいとおっしゃる俳優さんの話もよく耳にしますが、私はそういう感覚になれないので、すごいなと思います。
―というと?
やはりまったく知らない人生を演じるというのは、とても大変です。撮影といっても、作品が違えば、監督もスタッフさんも共演者の皆さんも違いますし、コミュニケーションの取り方も、監督から求められることも毎回違うので。
―コミュニケーションの取り方というお話がありましたが、映画もチームで撮っていくものですよね。何か気をつけていらっしゃることはありますか?
私、それが本当に課題で(笑)。なかなか人に話しかけにいけないですし、あまり自分から仲良くなることもないので…。本当にそういうところは、まったく長(た)けていない人間だと思います(笑)。
―芸能界のお友達は?
あまりいないです(笑)。もともと、仲良くなりそうな人と仲良くなるタイプなので、仲良くしたくて自分からものすごく話しかけるということもないですし、自分から何かすることはないですね。
―多部さんの出演されている撮影現場にうかがったことがありますが、いい雰囲気でした。気をつかうと、相手も気をつかってしまうけれど、余計なことをしないから、お互いに自然でいられるのでは?
現場で、特別なことは本当に何もしないです。確かにストレスがないといえば、ないです(笑)。自分がメインでやらせていただくときもこのままなので、場を盛り上げることは本当に苦手だなと思います。
壁って何にぶつかるんですか(笑)
―ところで、皆さんに「壁にぶつかった経験」をうかがっているのですが。
壁ですか…例えば、何にぶつかるんですか(笑)。
―理想と現状のギャップで悩む、とかでしょうか。
そうですね…あんまりないですね(笑)。もちろん、長ぜりふを覚えられるかな、今日はうまくできないなと思うこともあります。そういうことも小さな壁といえば、壁なのかもしれないです。
―例えば、昨年のミュージカル『TOP HAT』では、ミュージカル『アニー』に憧れて芸能界に入られた多部さんにとって、大事な分野だからこそ出演してこなかったというミュージカルに初挑戦されましたよね。
あれは本当に挑戦でしたね。大きな課題を頂いたというか。このお仕事は答えがないじゃないですか。なので、達成できたのか、自分ではわからないです。
―ヒロイン役で、華麗なボールルーム・ダンスもタップダンスもすてきでした。
ありがとうございます。『TOP HAT』のときの大きな課題は、ダンスや身のこなしで身体的なことだったので、大変でも、やればやるだけ体に染み込む感覚がありましたし、時間のある限りやったつもりです。後悔はないです。
―『TOP HAT』がうまくいって、もっとミュージカルをやりたいと?
いや、ミュージカルは出るよりも、見るものだと思いました(笑)。本当に大変でしたから。『TOP HAT』が決まった後は、ほかの作品をやりながら、空き時間を使って1年ほど特訓していて、休みの日はずっとレッスンに行っていました。
―そうだったんですね。
もしまたミュージカルに挑戦するときは、1年ほど掛けて取り組むことになるので、すぐにできるものではなくて…。ミュージカル俳優さんは次々に出ていらっしゃいますが、私はそうはできないので。やると決めたらやり抜きますが、最低1年間はほかのお仕事もやりながら準備したいので、覚悟が決まらないとできないですね。
―うかがっていると、一つの仕事へ向かう覚悟の強さを感じます。
できる限りのことはしますが、自分に対して、「もっとできるはずだ!」とは思わないです。できる限りのことをしっかりやるという気持ちで。だから、ストレスがないのだと思います。
―それは以前からですか?14歳からお仕事されていますが、お仕事の臨み方が変わってきているところはありますか?
それが、何も変わっていないんです。
―だから、壁もないんですね。転機については?
何も変わっていないので、転機もないんです。皆さん、インタビューでターニングポイントについてお話しされていますが…こうやって私が話していると、本当に何もないですね(笑)。
―ずっと変わらないというのは?
自分にあまり期待していないのだと思います。なので、「どうしてもっと高いところまで行けないんだろう」みたいな気持ちもないんです。
―理想と現実のギャップがないんですね。
そうですね。思い悩んだことがないですね。眠れないことも食べられないこともないです(笑)。
―お仕事に限らず、毎日が充実しているのかなと思います。
どうだろう…でも、足りないものはないですね。友達がいて、犬がいて、おいしいゴハンを食べて…普通ですが、毎日が楽しいです。
―仕事は、その一つなんですね。
そうですね。仕事は仕事で、しっかりやりたいです。
―大学にも進学されたそうですが、それも仕事だけでなく、自分の生活を大切にされたいという思いからですか?
そうですね。あ、大学に入ってすぐの時にありました、壁が(笑)。
―ありがとうございます(笑)。
ちょうど初めて主演の連続ドラマを撮影していて、仕事が忙しいときで。課題が多くて、時間の追われ方についていけない時期がありました。大学1年生の時が一番つらかったですね。
―どう乗り越えたんですか?
そういうときはやるしかないじゃないですか。あ、あと人に話すことですかね。
―周りの人にですか?
私、友達や家族に結構話す性格なんです。きっと思い悩むことがないというのも、そういうことだと思います。「聞いてほしい」という思いがすごいので(笑)。
―(笑)
そこは今も変わっていないので、私の感情を周りの友達はみんな知っています。今うれしそう、今かなしそう、今つらそう(笑)。
―大学でできたご友人も大事な存在なのでは?
そうですね。学ぶことだらけです。みんな、就職活動をして、それぞれの仕事をして。それは私が経験してこなかった道なので、とても尊敬していますね。けれど逆に、友達は友達で私のことを尊敬してくれていて、だから今も関係が続いているのかなと思います。
―では最後に、お仕事をする上で大事にしていることを教えてください。
何でしょう…私はあまり、将来こういう人になりたいとは考えないんです。何歳までにこの役をやりたいという思いもないですし。シンプルですが、1日1日、一つひとつを真面目に取り組むことが大事じゃないかなと思っています。
『アイネクライネナハトムジーク』
9月20日(金)全国ロードショー
伊坂幸太郎の同名小説を『愛がなんだ』の今泉力哉監督が映画化。仙台の街を舞台に、さまざまな出会いで結ばれた男女の10年間の軌跡を、豊かな人間模様を交錯させて描いた群像劇。
主人公・佐藤(三浦春馬)は街中で仕事中、紗季(多部未華子)という同世代の女性と出会う。お互い何かを感じながらも、連絡先を聞かずに別れた二人。やがて、ある場所で再会し、交際がスタートするが、10年後、二人は長い春を迎えていた――。
監督:今泉力哉
出演:三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、貫地谷しほり、原田泰造ほか
原作:『アイネクライネナハトムジーク』伊坂幸太郎(幻冬舎文庫)
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/EinekleineNachtmusik/
(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
取材・文/多賀谷浩子
撮影/中川文作
スタイリスト/岡村春輝
ヘアメイク/倉田明美(Cinq NA)
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