山川幸則

やまかわゆきのり・1975年東京都生まれ。神奈川県横浜市で育つ。福祉関係の短期大学を卒業後、教育系出版社の営業やファミリーレストランの接客スタッフなどのアルバイトをしながら、ホペイロ(プロサッカーチームの用具係)を目指す。99年、単身スペインに渡り、レアル・オビエド(当時スペイン1部リーグ)でホペイロのアシスタントを約3カ月間経験。帰国後、2000年にFC東京に加入。以来、ホペイロとしてスパイクやユニフォーム、トレーニングウェアなどの用具管理を担当。細やかな気遣いでチームを支えている。

24歳で単身スペインへ。老舗チームでホペイロ修業の機会を得た

スパイクのメンテナンスやユニフォームの準備など用具を管理し、サッカー選手が安心してピッチに立てるよう環境を整えるのが僕たちホペイロの仕事です。遠征では荷物の運搬手段を手配したり、自分でトラックを運転することも。Jリーグにも選手が自分で用具を管理するチームはありますし、代表チームにもホペイロという肩書の人はいませんが、選手がプレーに集中するには不可欠な仕事だと思います。

 

この仕事を目指したのは、高校時代にブラジル人のホペイロを特集したテレビ番組を観たのがきっかけです。僕は子どものころからサッカーが大好きで、サッカー部にも所属していましたが、うまくはなくて。荷物運びばかりさせられたのですが、不思議と嫌いではなく、用具にも興味があったんです。だから、海外には用具の管理をするプロフェッショナルがいると知って、そんな仕事ができたらいいなと思いました。日本にはない職業だけれど、もうすぐJリーグができるという時期でしたから、いずれはホペイロを置くクラブも出てくるかもしれない。ホペイロの認知度のない今のうちに頑張れば、自分もなれるんじゃないかなと考えたんです。

 

そこで、テレビで見たホペイロの仕事ぶりを思い出しながら、スパイクを磨いたり、練習道具を準備したり、自分なりに勉強をしていたのですが、どうすればホペイロになれるのか見当もつかなくて。先生の勧めもあって福祉関係の短大に進学し、福祉施設に内定も頂きました。でも、夢をあきらめきれず、短大卒業後はアルバイトをしながらJリーグの各クラブに手紙を書いたり、クラブハウスを訪ねてスタッフの募集を探しました。

 

数年そんな日々を過ごしましたが、進展はありませんでした。当時サッカークラブの裏方として仕事をしている人のほとんどは大学などでマネージャーを経験した人たち。肩書のない僕が簡単に雇ってもらえる仕事ではなかったんです。途方に暮れていたころ、フランスで開催されるワールドカップに日本代表が初出場することが決まり、思い切って観戦に行ったのが転機になりました。現地のサッカーショップである日本人ジャーナリストの方から声をかけられ、会話が弾んでホペイロを目指していることを話すと親身になって聞いてくれて。「海外で勉強して経験を積んだ方が早道かもしれない。もし海外に行くなら相談に乗れるかもしれないから、興味があれば、帰国後にオフィスを訪ねてきて」と名刺をくれたんです。

 

実際にオフィスを訪ねると「まさか本当に来るとは思わなかったよ」と笑われましたが、すぐにその方がスペインのサッカー関係者に連絡を取ってくれました。先方が言うには「今すぐ来られるなら、受け入れられるクラブもあるかもしれない」と。急な展開に驚きましたが、アルバイトでためてきたお金も少しあったし、ジャーナリストの方が協力してくれたこともあって家族の理解も得られたので、お話を頂いて1週間ほどでチケットを準備してスペインに渡りました。24歳のときです。

 

ところが、いざスペインに到着し、紹介された複数のクラブの人と会うと、きちんと話が通っていなくて。ホテル代だけ払って何もすることのない日々が1週間ほど続き、絶望感でいっぱいでした。そんなときに、紹介をしてくれたジャーナリストの方がドイツ出張のついでに様子を見にきてくれ、彼の口ききで当時1部リーグだったレアル・オビエドでホペイロの仕事を見学できることになったんです。「せっかく日本から来たんだから、邪魔にならないならいいよ」って感じで。

 

見学に行ってみると、当時のレアル・オビエドのホペイロはふたりいて、ひとりはドナートさんというおじいさんでした。足が悪く荷物運びがつらそうだったので代わりに率先してやっていたら、翌日にジャージを渡され、「着替えて手伝え」と。うれしくて毎日通ううちにドナートさんとははしご酒をする仲になり、選手とも顔見知りになってロッカールームに入ることも許され、ボール磨きや練習前の用具の準備など日常業務を次々と任されるようになりました。

 

そうやって日本人が働いているのが珍しかったのか、レアル・マドリッド戦を控えて取材に来ていたマスコミからある日インタビューを受け、テレビで放送されたんです。その番組を観たオビエドのサポーターの人たちが僕のことを「ユッキー」と呼んで応援してくれるようになり、食料をくれたり、「無給で頑張っているんだし、遠征にも連れていってあげたら」とチームに働きかけてくれて、その日から待遇が激変(笑)。同じバスで遠征に行ったり、試合後に一緒に食事をしたり、チームと行動を共にできるようになって、選手やスタッフとも親しくなり、観光ビザが切れるまでの約3カ月間、ホペイロの基本的な技術や知識を現場で学ぶことができました。

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いいことばかりじゃない。でも、最後までやり通せば何とかなる

FC東京がJ1昇格を機にホペイロを置くことを知ったのは、帰国後半年以上たってからです。クラブに連絡してスペインでの経験を伝えると、「すでにブラジル人のホペイロが決まっていて採用はできないけれど、よかったら、一度お会いしませんか」とお話があって。それで採用のことはまったく期待しないでうかがったところ、「ブラジル人のホペイロの来日がビザの関係で遅れているので、彼が来るまでアルバイトで働きませんか?」と思いがけない提案を頂き、喜んでお受けすることにしました。

 

当初は数週間の予定だったのですが、ブラジル人ホペイロの来日がさらに延び、石垣島でのキャンプにも参加することに。夢に近づけてうれしかったのですが、僕ひとりでは手に余る仕事量で洗濯だけで日が暮れる毎日。体力的にすごく厳しかったです。経験不足もあって至らないところだらけで、不満を口にする選手もいました。それでも必死でやっていたら、浅野哲也選手や前田浩二選手など当時FC東京に在籍していたベテラン選手たちが周りに声をかけて理解を促してくれたり、前に所属していたチームでの用具管理について教えてくれるなどサポートをしてくれました。

 

キャンプ終了後にクラブを離れる予定でしたが、選手たちがクラブの上層部にかけあってくれたおかげで正式にホペイロとして採用されました。以来14年がたちますが、大変だなと思うことはしょっちゅう起きます。FC東京に入った最初の年はブラジル人ホペイロとふたり体制でしたが、彼がホームシックになって帰国し、翌年はひとりですべての業務をこなさねばならなかったし、2011年の震災後や、クラブがACL(アジアチャンピオンズリーグ)に出場した12年は環境面で変化が大きくその対応に追われました。

 

でも、そのときどきでできる限りのことをやっているうちに、最近は何が起きても、「最後までやり通せば何とかなる」と思えるようになりました。以前はこわがって逃げ回っていたような難しい依頼もすぐには断らず、まずはどうすればできるのかを考えられるようになり、われながら少しは成長したかなと思っています。とはいえ、チームの人数も多いので、忙しい日は一人ひとりの要望を聞いていたら立ち行かなくて、とぼけて逃げることもあるんですけれど(笑)。落ち着いたときに、「この前の話、なんだっけ?」とフォローをしたりして。

 

サッカーは勝負の世界なので、ホペイロの仕事もチームが勝ったときは成功だし、勝てないときは失敗だと思っています。目標はJ1での優勝。そのために僕が何かで力になれるとしたら、あきらめないこと。できなくても、どうすればできるかを常に追究する気持ちは持ち続けています。スパイクの磨き方ひとつでも、選手からは「きれいだね」と言ってもらえるけれど、僕自身は満足していません。もっといいやり方があるはずだと思っています。

 

僕が「ホペイロになりたい」という夢をかなえられたのは、たくさんの人たちの応援があったからです。なぜみんなが応援してくれたのか、自分ではよくわかりませんが、いつも心がけていたのは率先して自分の仕事を探すことです。働き者の祖父母の影響もありますが、やはり仕事をするからには、自分がそこにいる意味を感じてもらえるよう少しでも多くその場に貢献したい。そう思って動き回っているのをたまたま見た人が「あいつまた動いているから、力を貸してやろう」と思ってくれたのかもしれません。これからも、健康である限り、チームのために動き続けていきたいです。

 

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INFORMATION

FC東京の公式ホームページ(http://www.fctokyo.co.jp)。試合やイベントのスケジュールや試合記録、選手・スタッフ紹介、チケット情報などが手に入る。選手・スタッフの紹介には、チームの一員としてもちろん山川さんの情報も掲載されている。

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取材・文/泉彩子 撮影/大星直輝

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