仕事とは?

Vol.241 <前編>前田裕二

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まえだ・ゆうじ●1987年、東京都生まれ。2010年、早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券株式会社に入社。2011年、UBS Securities LLCに移りニューヨーク勤務を経た後、2013年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。“夢を叶える”ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。2015年に当該事業を分社化、SHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。現在は、SHOWROOM株式会社・代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。2017年6月には初の著書『人生の勝算』を出版、Amazonベストセラー1位を獲得。

自分の生きた証しを世の中に残せるような仕事がしたい

-前田さんは大学卒業後、外資系投資銀行に就職。リストラも日常的にある環境で着実に成果を上げ、十分な報酬も得ていたそうですね。順風満帆なキャリアを捨てて、起業を志したのはなぜだったんですか?

新卒でお世話になった会社では「この人のようになりたい」と心から思う先輩にも出会え、ビジネスパーソンとして成長するには申し分のない環境だったと思います。入社当時からの目標だった海外赴任も2年目にして実現。世界経済の最先端で仕事をする高揚感も味わいました。でも、その後に待っていたのは「今の自分は本当に、人生を懸けて問いたい価値を世に出しているんだろうか」というモヤモヤした気持ちでした。投資家にアドバイスをし、彼らに利益をもたらす仕事というのは、投資家に対して価値を提供することはできますが、その利益の分、誰かが損をすることになる。僕のやっていることは世の中にすでにある価値を移動させているだけなんじゃないかというむなしさが心のどこかにぼんやりとありました。

 

そんな時に、大切な友人が亡くなり、死を身近に感じたことが起業にかじを切ったきっかけです。悲しみに暮れた後に生まれたのは、「人生ははかない。それならば、自分の生きた証しを世の中に残せるような、代替不可能な仕事をしたい」という強い思いでした。では、僕にしかできない仕事をするにはどうすればいいか。そう考えた時に、自分で事業を立ち上げ、ゼロから価値をつくり出していくというのが一番しっくりきたんです。

 

自分の熱量のすべてを注いでやりたいことは何か

-その後、株式会社ディー・エヌ・エーの一事業として「SHOWROOM(※)」を立ち上げ、2年後の2015年に子会社として独立。ディー・エヌ・エー代表取締役会長の南場智子さんとは、就職活動の最終面接が縁で交流があったそうですね。

(※)AKB48のメンバーから一般の女子高校生まで誰もがライブ映像を配信できるサイト。視聴者は無料で映像を楽しめたり、コメントを投稿できるほか、有料のバーチャルギフトを購入する「ギフティング」と呼ばれる仕組みで配信者を支援できる。最近では「SHOWROOM」をきっかけに事務所と契約したり、事務所に所属せずに多くのファンを獲得する配信者も増えている。

 

起業を決意して事業アイデアを固め、資金のめどもつきそうという段階で、起業のアドバイスを頂くつもりで南場さんにご連絡したところ、ランチをご一緒することになって。その時に、僕の話をひと通り聞いた南場さんから「アイデアは悪くないよ。でも、起業して成功するには、“実業”を現場でマネジメントしていく泥くさい力が必要だから、投資銀行の経験だけではうまくいく確率が低いかもしれない。まずはうちで修業してみたら?」と声をかけていただいたんです。

 

ただし、事業開発に当たり、最初に考えていたアイデアは採用されませんでした。プランに自信はありましたが、苦労を重ねながらいくつもの事業を起こしてきた南場さんから見れば、甘さがあったのでしょう。ほかにも50個以上の起業アイデアがあり、これはというものを厳選して提案しましたが、ビジョンが固まっていなかったり、僕自身の中にどこか「何が何でもやりたい」という思いが欠けている案については、見向きもされませんでした。自分の熱量のすべてを注いでやりたいことは何か。自分にしかできないことは何かを突き詰めて考えて、事業化が実現したのが「SHOWROOM」でした。

 

誰かの人生がポジティブに変わるさまを目の当たりにできる喜び

-前田さんが「SHOWROOM」を「自分にしかできないこと」だとお考えになったのはなぜだったんですか?

僕は大学時代に趣味でバンドをやっていたのですが、一生懸命頑張っているのに食べていけず、夢をあきらめる人たちの姿をたくさん見てきました。ビジネスでも勉強でも、頑張ればそれなりの成果が出ます。でも、エンタテインメントの世界は所属事務所の力量や、コネクションの有無など努力ではどうにもならない要素がほかの業界に比べて多い。これまでにない仕組みをつくることで、努力している人がきちんと機会を得られるようにしたいと思いました。

 

理由はほかにもあります。僕は8歳で両親を亡くし、いわゆる「普通」とは違う家庭環境で育ちました。経済的にも恵まれていたとは言えません。そのために自分は不幸だと考え、物事に前向きに取り組めない時期もあったのですが、年の離れた兄が深い愛情で僕を守ってくれ、逆境をバネにできるようになりました。だから、どんな境遇に置かれた人であっても、努力すればきちんと報われる世界をつくりたい。「与えられた運命に打ち克つことはできるんだよ」と言いたいという気持ちが人一倍強くあるんです。

 

-事業の立ち上げ当初は、大変なことも多かったのでは?

創業時のメンバーは僕とエンジニアの2人だけ。マンパワーが足りないこともあってシステムの構築が追いつかず、初めての配信は大失敗でした。スムーズに配信できるようになっても、有料のバーチャルギフトを利用してくれる視聴者は増えず、ビジネスとして成立しない時期が続きました。ライブハウスに足を運んで営業し、配信をしてくれるアイドルを増やして事業撤退の危機を脱出。事業は少しずつ成長し、組織も大きくなったものの、僕のマネジメント力不足でチームが崩壊しそうな状況になったこともあります。

 

それでも一つひとつハードルを乗り越えてこられたのは、「SHOWROOM」で配信してくれるアイドルやアーティストが成長していく姿を目の当たりにし、「努力している人がきちんと機会を得られ、報われる世界をつくりたい」という自分の価値観が間違っていないと実感できたから。例えば、「SHOWROOM」で人気のアーティストの一人、中嶋元美さんは聴覚障がいがありますが、視聴者との丁寧なコメントのやりとりで週に100人のペースでフォロワーを増やしています。「SHOWROOM」を通じて、誰かの人生がポジティブに変わっていく。そのさまを見られる喜びが、創業時から今に至るまで変わらない僕の原動力です。

後編では今後の展望や、前田さんが考える「就職活動で大事なこと」についてお話しいただきます。

→次回へ続く

(後編 11月15日更新予定)

 

INFORMATION

前田さんの著書『人生の勝算』(幻冬舎/1400円+税)。「SHOWROOM」の事業やエンタテインメント業界における動画配信サービスの可能性、事業を成長させるための本質的な考え方などビジネスに役立つ内容だけでなく、前田さんが「SHOWROOM」を立ち上げるまでのプロセスや人生観も丁寧につづられている。就職活動の基本的な考え方やノウハウも書かれており、「就活ガイド」としても読める。

 

取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康

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