都内某所にひっそりたたずむ、知る人ぞ知る会員制のマンガ専門貸本屋「ゆたか書房」。会員の中には、店主のゆたか まりさんに人生相談をする人も。悩みに答えるアドバイスと共に、オススメのマンガを紹介してくれると聞きつけて、はるばる店を訪ねる就活生もいるんだとか。
就活や「働く」ことに悩んでいるあなたの意識を変えてくれるかもしれない、とっておきのマンガを、店主の独断と偏見で紹介します。
就活したくないのは、「仕事が面白い」って知らないから、かもね?
これまでいろんな学生さんの就活の悩みを聞いてきたけれど、スタート前から「考えるだけでユーウツ…」「やりたいことなんて特にないし」という人がとっても多いのよね。
でも、ズルズル引き延ばし工作しても、結局は就活するわけだ。「わかっちゃいるけど無理して前向きになるのはしんどい」という人でも、読んだらやる気がわいてきちゃうようなマンガがこちら!
出版社に入社してマンガの編集部に配属された新人・黒沢心を中心に、編集部や営業担当、印刷会社、校閲会社、書店員、マンガ家、アシスタントなど、さまざまな立場の人が登場。それぞれの立場の人の仕事にフォーカスし、自分の仕事に向き合う姿や、その背景にある思いを描いている。「いかにも出版」な華やかなポジションではなくても、自分の仕事にやりがいと誇りを持って日々働き、そうしたすべての人たちの力によって出版業界が支えられていることがひしひしと伝わる。
「義務」だと思ってイヤイヤ就活すると、仕事自体がツラくなる可能性も大
「就活やりたくない」って思う学生の多くは、「夏休みの宿題やりたくない」テイストにかなり近い気がするのよね。「やらないとお母さんがうるさいし…」みたいなさ。
人間、やらされ感があるほどイヤになるし、イヤだと思うほどイヤになるもんね。でもさ、就活のことをやらなきゃならない「義務」って思ってるかもしれないけど、別にそんなこたぁない。やらんでも叱られるわけでもなし。
じゃあ、就活のことをどう考えればいいのかって?ここは「義務」っていう発想を変えてみたらどうかな~と思うんだよね。
例えばさ、社会人になったら、少なくとも毎日8時間働くわけだ。もしも義務感のみで就活したなら、大してやりたくもない仕事に落ち着く可能性が大きいのよね。すると、入社以降の仕事そのものが「食っていくための義務」になっちゃうわけだ。
それが毎日8時間。週5勤務だと1週間で40時間。1年たてば2000時間続くわけよ、そら恐ろしい!!
わずか半年〜1年程度の就活期間を頑張らなかったことで、毎年2000時間を義務に生きるって、一体何の修行なんですか、と。「夏休みの宿題やりたくない」レベルをはるかに超える苦行だよね。まあ、それで何らかの悟りを開きたいっていうのなら別に止めないけどさ。
▲第1巻は主人公の心が就活生だった時の回想から始まる。ケガでオリンピック出場をあきらめて柔道一筋から路線変更、「出版社に入りたい!」という熱い気持ちのみなぎる面接の様子は必見。
世の中にはたくさん仕事があって、キミにはそれを選ぶ“権利”がある!
話はそれたけど、世の中にはたくさんの仕事や会社があって、そこにはいろんなやりがいやしんどさがあって、いろんな面白い人やつまらない人が働いてるんだよね。
就活ってものは、そんな広〜い世界の中から自分のやりたいことや面白いと思えることを探せたり、一緒に働きたくなる人に出会えたりするチャンスなのですよ!そう思うと、ちょっと楽しくなってこない?
え?「ならないし、ダメなら転職すればいい」って?でもさ、世にある多くの企業が一斉に「いらっしゃ〜い!」って採用活動するのは新卒の時だけ。中途採用するタイミングはまちまちだからね。
新卒の就活って、いろんな業界や会社を見て回ることができて、たくさんの選択肢の中から、自分で選んでチャレンジできるのよ。これって、すごい“権利”じゃない?人生に一度きりの特典だよね。
だからこそ!!「今、就活やっとくのって断然おトク」だと思った方がいいんだよね〜。
今回オススメする『重版出来!』には、出版業界で活躍するすてきな大人たちが登場するよ。「そこそこ」なんかじゃなく、自分の仕事にやりがいや誇りを持ち、壁にぶつかっても成長していくその姿を見れば、「働くって、楽しそう」「こんなカッコいい働き方したい」と、きっと思えるはず。
新卒ならではの“権利”を存分に活用するためにも、このマンガで働くことの醍醐味(だいごみ)を感じて、就活のモチベーションを上げていこ!
オススメのひとコマ
出版業界一つ取っても、そこにはいろんな仕事がある!
もしかして、「出版の仕事=編集」って思ってない?でも、出版社にも営業から宣伝、校正、庶務まで幅広い部署や職種があるし、出版業界には、印刷会社やデザイン会社、卸会社に書店と、いろんな会社がかかわってるのよ。このひとコマは、それぞれの奔走と活躍の果てにヒット作が生まれたというエピソードからの抜粋。「俺たちが売ったんだよ」と胸を張る姿に、彼らの仕事に対する情熱や誇りをぜひ感じてほしいな。出版社に入社することも、花形の編集者になることも狭き門。だけど、ほかの仕事でも出版業界にかかわることはできるし、これはすべての業界にも言えること。すでに憧れの企業や興味を持った業界がある人は、ド真ん中の業種だけでなく、それを支えるいろんな仕事や会社にも目を向けてみるのはどう?自分の可能性が広がるかも。
(c)松田奈緒子/『重版出来!』/小学館
プロフィール
ゆたか書房店主 ゆたか まり
都内某所で50年以上続く貸本屋「ゆたか書房」を引き継いだ3代目店主。毎月、50〜70冊程度の新刊マンガを入荷し、年間1000冊前後のチェックを続けている。2016年、旧店舗立ち退きにて、新店舗への移転を果たし、現在も会員の無理難題に応えながら、面白いマンガをオススメし、広めていくことをテーマとしている。(※会員制につき、いちげんさんへのマンガの紹介はお断りしています)
・「就活にイマイチ本気になれない…」人には『BLUE GIANT』
・「社会人が怖い」人には『中間管理録トネガワ』
・選考がうまくいかずに落ち込んでいる人には、『フットボールネーション』
・「就活しないで遊んでたい」と思っている人には、『おいピータン‼』
・「華やかな仕事って楽しそう」と思っている人には、『チャンネルはそのまま!』
文/ゆたか まり